遺族が直面する“死後サブスク”のリアルな被害事例

親や配偶者が亡くなった直後、悲しみが癒えないうちにクレジットカードの明細やメールで「○月分ご利用料金」といった通知が届く――。
近年、こうした“死後サブスク”トラブルが増えています。
動画配信、音楽配信、クラウドストレージなどの月額サービス(サブスクリプション)は、契約者の死亡を自動で検知できません。
そのため放置すれば、半永久的に課金が続いてしまいます。
金銭的損失に加え、「IDもパスワードもわからない」「問い合わせ先が海外で英語しか通じない」といった精神的ストレスも遺族に重くのしかかります。
この記事では、実際の被害事例から原因と予防策を分かりやすく解説します。
目次
死後のサブスク放置で何が起きる?リアルな被害事例
サブスクを放置すると、銀行口座やクレジットカードが停止されるまでの間、自動引き落としが続きます。
残高が尽きると延滞扱いになり、運営会社から督促が行われることも。
対応を誤れば、ブラックリストに載せられたり、遅延損害金の請求を受ける可能性もあります。

例えば、ある遺族はNetflixとSpotifyの月額3,000円弱を1年間払い続け、約4万円の損失を出しました。
また、二段階認証に故人のスマホが必要ですが、回線解約を済ませていたため、認証コードが受け取れず、手続きに行き詰まったケースも発生しています。
これらの事例は、誰にでも起こり得る現代の「デジタル遺品問題」を象徴しています。
突然届く請求書:故人のサブスク料金トラブル
東京都の50代女性は、父親の死後3か月でカード会社から未払い通知を受け取りました。
調べるとApple Musicや新聞電子版、クラウドサービスなど7件が継続されており、合計18,000円の請求。
相続手続きの最中、海外窓口との英語でのやり取りに追われ、精神的にも大きな負担となりました。
これは、請求書が届くまで存在に気づけない“隠れサブスク”の典型例です。
解約できない!知らなかったデジタル遺品と遺族の混乱
「デジタル遺品」とは、スマホやPC、クラウド上に残るデータや契約全般を指します。
死後サブスク問題はこのデジタル遺品をきっかけに顕在化しますが、多くの遺族が「故人のIDやパスワードを把握していなかった」と回答しています。
パスワードがわからないためにログインできず、サブスク支払先のカスタマーサポートには本人確認書類を求められ、解約まで数か月かかるケースも。
中には「契約者本人以外の解約は不可」と表示されるチャットボットに阻まれ、サポートの電話番号すら分からず立ち往生する例もあります。

情報不足がさらなる混乱を招くのが、死後サブスクの最大の問題点です。
返金されない?未解約による損失と注意点
サブスクは前払い制が多く、死亡月に解約しても日割り返金されない場合がほとんどです。
また、カード停止による強制解約では未払い残高が残り、遺族名義で督促が届くこともあります。
なぜ“死後サブスク”問題が起こるのか
最大の原因は、サブスク契約が「自動更新・自動課金」を前提としており、“死亡”という事態を想定していないためです。
携帯電話や光回線のような実体サービスは死亡届で停止できますが、オンラインサブスクは契約者自身が「解約」操作を行わない限り続行されます。
さらに、英語表記の利用規約が多い点も、気づきにくさを助長しています。
こうした仕組みの問題が、遺族への請求やトラブルを増やしているのです。
スマホ時代の見落としリスク
スマホ1台でいくつでもアプリ課金が可能な今、本人ですら全契約を把握していないことは珍しくありません。
多くの人が複数の有料サービスを持ち、その中に家族が知らない“隠れ契約”も含まれていることもあります。
無料期間付きのサブスクにも要注意です。
お試し登録のまま放置しておくと、死亡後に本契約が開始されるケースもあります。

遺族が直面する3つの「解約の壁」
- 本人確認の壁
ID・パスワードが不明な場合、戸籍謄本や死体検案書の提出を求められるケースもがあります。
中にはプライバシー保護の観点から情報開示を拒まれることもあります。 - 多言語対応の壁
海外サービスでは日本語サポートがなく、時差で返信が遅れることもしばしばです。 - 支払い経路の壁
クレジットカード、PayPal、キャリア決済、Apple IDなど複数ルートが絡むと、どこに連絡すれば止められるのか特定が困難になります。
これらの壁が重なり、遺族の負担をさらに大きくしています。
生前にできる“死後サブスク”対策と終活の工夫
“死後サブスク”は、生前の準備でほぼ防げます。
ポイントは「情報の見える化」「権限委任」「契約の棚卸し」の3つです。
定期的なリスト更新と情報の家族共有、エンディングノートの活用、さらに死後事務委任契約を結ぶことで、遺族の負担は大幅に減らせます。
デジタル遺品の整理とエンディングノートの使い方
すべてのアカウントやパスワードと解約手順をエンディングノートにまとめましょう。
紙に残す場合は耐火金庫など安全な場所に保管し、信頼できる家族だけに所在を伝えておく方が安心です。

家族で話し合っておきたいこと
サブスクの一覧、支払い方法、解約窓口などを家族で共有し、誰が解約対応を行うかを、生前に話しあっておくとスムーズです。
動画・音楽・ゲームなどのサービスは、スクリーンショットやロゴ付きリストにしておくとわかりやすいでしょう。
委任契約で備える方法
公正証書遺言に「デジタル遺品の処理方針」を記載し、死後事務委任契約で具体的なサブスク解約を委任しておけば、法的な裏付けが得られます。
これにより、運営会社への交渉もスムーズになります。
終活アプリで手軽に備える
委任契約や書面での共有に抵抗がある場合は、終活アプリを利用するのも有効です。
サブスク情報を登録しておけば、死後に家族へ自動で届けられれ、生前のパスワード共有や委任契約を行わなくてもよい終活アプリもあります。
SNSや知恵袋に見る「死後サブスク」の悩み

Yahoo!知恵袋やSNSには、「父が亡くなったのにiCloud料金が引き落とされ続ける」「アカウント削除方法がわからない」といった声が多数投稿されています。
最近ではネット銀行の外貨口座、暗号資産取引所、格安SIMなどもサブスク同様の自動課金が主流です。
放置すれば口座維持手数料やサーバー利用料が発生し続けるため、より広い視点での“デジタル終活”が欠かせません。
まとめ:家族を守るための“死後サブスク”知識
“死後サブスク”問題は、「知らなかった」では、家族に金銭的・心理的ダメージを与える、新しい相続リスクです。
しかし、生前の情報整理と準備で、ほぼ100%防止が可能です。
今日からできる終活対策で、大切な家族を“見えない請求書”から守りましょう。

監修した人:山本円佳さん(ファイナンシャルプランナー)


