アリとキリギリスに学ぶ、中高年の「がんばらない安心」のつくり方
デジタル時代を生きる私たちに必要な、新しい安心の距離感とは。
誰もが子供の頃に一度は耳にしたことがある、イソップ童話の『アリとキリギリス』。
夏の間にせっせと冬の蓄えをしたアリが救われ、今を楽しんで歌っていたキリギリスが冬に困窮するというこの物語は、私たちに「未来に備えて厳しく準備をしておくことの大切さ」を教えてくれます。
この教えは、私たちが大人になった今、「終活」や「資産の引き継ぎ」というテーマにも重なります。
「万が一のとき、遺される家族が困らないように、今のうちに保険や口座の情報をきちんと整理しておかなくてはならない」
頭ではそう分かっていても、エンディングノートを白紙のまま引き出しに眠らせてしまったり、ダウンロードした管理アプリをいつの間にか開かなくなってしまったりする人は、驚くほどたくさんいます。
しかしそれは、決してその人が「怠惰」だからではありません。
なぜなら、それこそが「人間という生き物の、ごく自然な習性」だからです。
楽しさを求める心が、デジタルを進化させてきた
心理学や行動経済学の領域では、人間には「未来の重い課題を先延ばしにし、今の心地よさを最優先する」という本能(現在バイアス)があることが分かっています。
私たちは本質的に、キリギリスのような性質を誰もが心の中に持っているのです。
むしろ、人類の歴史を振り返ってみれば、「もっと楽をしたい」「今を楽しみたい」というキリギリスのような願いがあったからこそ、指一本で買い物ができ、世界中と繋がれるスマートフォンなどのデジタル機器がここまで発展してきたとも言えます。
そう考えると、日々の生活に多くの時間を費やす私たちが、まだ見ぬ未来のために、アリのように毎日せっせと「重い管理」や「厳格な手続き」を自らに強いること自体が、不自然です。
がんばってアリになろうとする終活が長続きしないのは、私たちが人間の自然体に反して、無理を重ねてしまっているからに他なりません。
キリギリスのまま、アリの備えを持つという選択
このデジタル時代、これからもペーパーレスは拡大し続けるでしょう。
それに伴い、生命保険証書や通帳など大切な情報が「もの」として存在しなくなるため、わたしたち一人一人が大切な人へ引き継ぐためには、自分でなんとかするしかありません。
だからといって、義務感に縛られて無理をするのではなく、人として自然なかたちで行うことが大切でしょう。
この、キリギリスの居心地の良さと、アリの確実性を矛盾なく両立させた終活こそが、デジタル時代を生きる私たちと、遺される家族をいつまでも、温かく守り続けてくれる知恵になるはずです。

